手話学研究
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28 巻, 1 号
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原著論文
  • 絵本読み場面の分析
    鳥越 隆士, 武居 渡
    2019 年28 巻1 号 p. 1-19
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,第一言語として日本手話を獲得しつつある一人のろう幼児が家庭でどのように日本語に接し,それを学んでいるか,絵本読み場面の観察を通して,記述的に明らかにすることを目的とする。 観察した年齢は,4か月齢から4歳3か月齢までであった。日本語の表出やまわりの大人による働きかけに関する455のエピソードが抽出された。質的分析の結果,5つの時期に分けられた。(1)手話による表出がまだ見られない時期,(2)手話による表出の時期,(3)指文字の初出と文字との対応成立の時期,(4)指文字による語の表出と手話との対応成立の時期,(5)多様な日本語の表出と言語意識が育つ時期である。第2期は,手話の表出とともに,文字への関心が見られ,大人の援助も受けながら指先で文字をなぞるなど,プレリテラシー活動が見られた。第3期に指文字が初出した。当初は文字との関連が見られなかったが,文字を指さして指文字を表出するなどを通して両者の関連が形成された。この時期に指文字を通して日本語の音韻が形成されたと考えられた。第4期には,語レベルで指文字を表出するようになり,これを通して日本語の学習が進められた。第5期には,指文字の使用が文レベルにまで広がり,読みの端緒が見られるようになった。母親は様々なストラテジーを用いて日本語の学習を援助していた。例えば,手話を表出するとき,絵や文字を指さして,指文字も表出したり,時には日本語の口型も表出した。このような関わりを通して,日本語と日本手話との関わりの形成を援助していたと考えられた。最後に手話と音声言語のバイリンガル言語環境におけるろう児への教育的援助について議論がなされた。
  • 等位接続の同時性における非対称分析
    浅田 裕子
    2019 年28 巻1 号 p. 20-30
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー
    「太郎と花子が結婚した。」のような等位接続文は、並列に接続された句(「太郎」・「花子」)は同じ主題役割を持ち、またそれらを入れ替えても一方の文が真であるときに他方も真になる(「花子と太郎が結婚した。」もまた真になる。)という意味的対称性をもつ。また一方で、これらの句は、どちらか一方を先に順序付けて音韻化しなければならないという音韻的非対称性をもつ。この意味と音韻の不整合という理論的問題に対し、音声言語を中心とする従来研究において、生成文法の枠組み (Chomsky 2015) で提示されている等位構造の統語分析には、大きく分けて二つの立場がある。等位構造で並列につながれている句(等位句)が統語的に同じ高さの位置にあると考える対称分析と、異なる高さにあると考える非対称分析である (Progovac 1998 を参照)。ここで、意味と音韻の不整合という問題の検証のため、二つ以上の調音器官をもつ手話言語は理想的な言語といえる。なぜなら、音声言語のように要素を順序付けて音韻化しなければならないという制約が必ずしも働かないからである。 本稿では、日本手話の等位接続の音韻化において、物理的には可能であっても、等位構造の二つの等位句を同時に調音することが不可能であるという観察事実を示す。これは、等位構造の非対称分析 (Den Dikken 2006, Mitrovič & Sauerland 2014) が妥当であることを示唆している。
  • 二タイプの列挙浮標
    浅田 裕子
    2019 年28 巻1 号 p. 31-39
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー
    手話言語では、複数の要素を列挙する場合、非利き手の指を一本ずつ横に伸ばし、数のサインを保持することで、利き手の列挙操作における補助的機能を果たす場合がある。従来研究でよく知られているのは、非利き手の指を一本ずつ横に伸ばしていくタイプ(標準型)の列挙浮標であるが、日本手話においては、非利き手の指を内側に折りこんでいくタイプ(内向き型)も存在する。興味深いことに、この内向き型列挙浮標は、日本手話話者や音声日本語話者が使用する数を数えるジェスチャーと表現形態が類似している。そこで本研究では、日本手話母語話者と音声日本語話者を対象に調査を実施し、二タイプの列挙浮標と音声日本語話者が発話時に使用する数のジェスチャーの分布を比較した。この結果、手話話者の使用する内向き型列挙浮標とジェスチャーでは、いくつかの重要な差異があることが明らかになった。この観察に基づき、本論は、日本手話の内向き型列挙浮標は数を数えるジェスチャーから文法化した言語的要素であると提案する。内向き型列挙浮標は、ジェスチャーにはみられない離散性、階層性、そして形式と意味の対応という人間言語の本質的特性を示している。最近の諸研究ではジェスチャーと手話サインの境界について活発な議論が交わされているが (Kendon 2008, McNeill 2000)、本研究の調査結果は、ジェスチャーと手話サインを区別する実証的証拠があるという立場 (Goldin-Meadow & Brentari 2017) を支持するものである。
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