手話学研究
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総説
岐阜聾学校における「口形・口型」の実態
9のエピソードからみえてきたもの
鈴村 博司
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2020 年 29 巻 2 号 p. 57-73

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抄録
聾児・聾者のコミュニケーションに用いられる伝達手段は、補聴器、口話、手話、指文字、空文字等をそれぞれ、聾児・聾者の情況に合わせて、ダイナミックに使い分けられている。今日の感染症流行に際して、岐阜聾学校は、オンライン学習支援の配信、岐阜県、その他の機関からの支援、寄付によるマスクと口唇・舌、表情が見える透明マスクの無料配布などの取組がとられた。そして、「クラスター」「ロックダウン」など新しい語彙が出てきて、その新しい手話を日本手話研究所が作り出したが、マスクをつけたままその手話を読み取ろうとすると、筆者はよくわからない。指文字を使って多少は読み取れるが、マスクをとった方が、手話に合わせて口唇の様子で読み取れるし、その方がもっとたやすい。そこで、さまざまな伝達手段の中の一つである「口話」に注目した。しかし、ここで用いる「口話」とは、発声・発語指導の立場からではなく、聾者の目で見る口唇、舌のかたちのことで、日本語「口形」と手話「口型」があると考えた。その「口形」と「口型」のそれぞれの割合は個々の聾者によっていろいろ異なる実態があるので包括して「口形・口型」とした。そして、岐阜聾学校の職員として現場での「口形・口型」実態を観察した結果、なぜ日本語「口形」が多用されているのか。また筆者(聾教師)が時々表現を豊かに伝えたい時に使う手話の「口型」はどの場面で使われ、聾児にどんな影響を与えたのか。 聾児は、在学中に「口形」を通して日本語を獲得し、その運用の仕方を学びながら、公民性を身につけていく。そして、卒業し社会人となると、様々な場所で出会う聾者仲間から日本手話とアイデンティティの影響を受けて、手話とともに用いる独特の「口型」が見られるようになり、日本語と日本手話のバイカルチュラル・バイリンガルの生き方へと移行する傾向がみられる。本論文は「口形・口型」を切り口にして、岐阜聾学校の聾児の実態をまとめ、考察を深めたい。
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© 2021 日本手話学会
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