抄録
本稿は保護者によるさまざまな教育的要望のある公立ろう学校幼稚部において、幼児の日本語の獲得・習得について指文字と口形と手話語彙を併用した言語指導・言語活動を展開し、教育実践研究の視点からどのような成果が得られたかを検討した。朝の会や個別指導、絵日記指導の一場面を記述し、幼児同士や幼児とのやりとりを分析した結果、手話語彙や指文字、口形の共起事象は手指や口形の表出に関する留意点を念頭に置いた上で活用すれば幼児の日本語への意識が高まり、語彙の拡充だけでなく他者に意味を尋ねたり、音韻の獲得・習得に繋げたりする場面が見られた。一般動詞の規則性や接続助詞と格助詞の違いに対しても、手話を中心に指文字と口形を使って理解していたことが明らかになった。これらのことから手話語彙や指文字、口形のそれぞれの共起は聴覚障害児の日本語の獲得・習得にとって有用であることがわかった。