本稿は本稿の目的は手話辞書学の展開にあたり、「日本語→日本手話・対訳辞書」にみる記号図式と記号過程の考証に言語学的接近法とともに、記号論的接近法を援用し、手話記号論を手話言語学領域にも受け入れ得るものにすることである。それは手話辞書学において手話言語学を排除するものではなく、手話言語学と手話記号論の対話を通した知識の構造化をはかるものである。本稿は画像の本質は外延指示であるとみなすGoodman 指示理論、画像の述定図式と註文の指示図式の組み合わせが描写対象を指示するとみなすBennet 画像理論、画像の本質は不確定対象の非外延指示であり、解釈者による提喩的一般化を経て描写対象の指示がおこなわれるとみなすBeardsley 画像理論を援用し、手話対訳辞書にみる見出し語、挿絵(=画像)、および挿絵説明文(=註文)の記号図式と記号過程を考証した。その結果(1)紙媒体の「日本語→日本手話・対訳辞書」の画像と註文の組み合わせが辞書利用者の学習度をはじめとするさまざまな文脈との作用を通して日本手話語彙(固定語彙・類辞語彙)を指示し得ること、(2)画像と註文の組み合わせによる日本手話の指示は不確定表示の提喩的一般化という記号図式と記号過程に描くことが可能であること、の二点が示唆された。このような知見は電子媒体の「日本語→日本手話・対訳辞書」にみる手話動画をより利用しやすい様態に改善していくための参考になり得る。