抄録
本研究の目的は,小学生版ストレス認知的スキーマ尺度の開発を行い,ストレス認知的スキーマと個人的属性の検討及びストレッサーとの関係性の検討を行うことであった。小学校4年生-6年生の262名(男子119名,女子143名,平均年齢10.83歳,SD=0.79)を対象に,基本的属性,ストレス認知的スキーマ項目,ストレッサー尺度で構成された質問紙調査を行った。調査時期は2005年2月26日から3月14日であった。探索的因子分析の結果,ストレス認知的スキーマにおいて2因子(自己規範性・対人規範性)が抽出された。また,各因子の信頼性係数(Cronbach's α)の算出を行った結果,信頼性係数はそれぞれ0.751,0.833を示し,本尺度の信頼性が認められた。さらに,検証的因子分析を行った結果,本尺度の適合度は良好であったため,本尺度の構成概念妥当性が確認された(GFI=0.915,AGFI=0.886,CFI=0.905,RMSEA=0.062)。作成されたストレス認知的スキーマの各下位因子に対して,性差,学年差及び進学塾への通塾差について,t検定及び一元配置分散分析にて比較検討を行った。その結果,男子よりも女子の方が「対人規範性」が有意に高い結果が得られた。また,ストレス認知的スキーマとストレッサーとの関係性について2つの仮説モデルを想定し,重回帰分析及び共分散構造分析にて検討を行った。その結果,ストレス認知的スキーマの2因子がストレッサーの規定要因となる「ストレス認知的スキーマーストレッサーモデル」が示された。これらの結果より,ストレス認知的スキーマ尺度の信頼性及び妥当性が統計的に確かめられた。また,小学生のストレス認知的スキーマの構造は,高校生の構造よりも単純な構造を示した。これらの結果を総合すると,ストレス認知的スキーマは,学校・社会・家庭などでの社会生活を送る上で,葛藤や妥協などの対人関係での様々な経験を通して発達していくものと考えられる。そのため,対人関係を意図したストレスマネジメント教育やソーシャルスキル・トレーニングの実施は,小学生のストレス認知的スキーマの発達を促進させ,ストレス反応を軽減させる可能性が期待される。