学校メンタルヘルス
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資料論文
性同一性障害当事者が抱える困難と困難を乗り越える要因
福本 美樹
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2016 年 19 巻 2 号 p. 164-172

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抄録

【問題と目的】1990年代後半より,性同一性障害に対する社会的な受容が高まってきているように見える。しかし,性同一性障害当事者が社会的・心理的に様々な困難を抱えているという報告もあり,性同一性障害当事者がいまだ大きな心理的ストレスを抱えている現状が推測される。そこで本研究では,性同一性障害当事者への支援方法を考察するために,性同一性障害当事者が抱える困難と困難を乗り越える要因を明らかにすることを目的とした。

【方法】性同一性障害当事者3名に対し,半構造化面接で,これまで経験してきた心理社会的困難と,そうした困難への対応状況あるいは方法を聞き取った。面接で得たデータをもとに,複線径路・等至性モデル(TEM)により分析した。

【結果】困難として,自分の望む服装や持ち物を志向しても周囲に受け入れてもらえなかったこと,性に対する違和感を周囲に言えないこと,第二次性徴,学校や職場の制服や性役割の強要,就労できないことなどがあった。困難への対応状況あるいは方法としては,自分の性に対する違和感を言わないことにより周囲の批判を避けること,体の変化や制服の着用・外部からの性役割の強要を受け入れること,性同一性障害当事者の仲間を得ること,性に対する知識を得ること,家族や友人からの受容などがあった。

【考察】性同一性障害当事者が困難を乗り越える際に必要である要因として,①性の多様性に関しての知識理解②性に違和感をもつ仲間たちとのつながり③家族や親しい友人からの受容④学校の受け入れ態勢の整備⑤職場の理解,が明確になった。特に④と⑤については,学校や職場での性別二元論に基づく男女別の振り分けに苦しむ当事者の状況が明らかになった。今後は,学校や職場における性の多様性についての理解と意識改革が必要であるとともに,なぜ学校や社会が性に違和感をもつ人たちを受け入れることができないのかという,性同一性障害当事者を取り巻く環境側の要因を研究していくことが必要と考えられる。

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© 2016 日本学校メンタルヘルス学会
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