【問題と目的】近年,子どもの自尊感情の低さが問題視される傾向にある。自尊感情については,James, W.やRosenberg, M.をはじめとして,これまで多くの研究者によって様々に定義されている。本研究においては,他者との比較のうえで成立し,他者より優れていることで得られる「社会的自尊感情」と,他者との比較なしに,絶対的な感情として心のうちに存在する「基本的自尊感情」の2つの自尊感情を「自尊感情」として,日本の小学生,中学生,高校生の「自尊感情」の実態を明らかにする。
【方法】養護教諭向けの専門誌にて調査協力校を募集し,小学生(計877名),中学生(計2,338名),高校生(計2,597名)を対象に,自記式質問紙による集合調査法で調査を行った。
【結果と考察】基本的自尊感情については,小学4年生から高校3年生までのいずれの学年も,女子と比べて男子の方が有意に高い値を示した。この背景には,対人関係における性差の特徴があると考えらえる。社会的自尊感情については,中学1年生から高校3年生までのいずれの学年も,女子と比べて男子の方が有意に高い値を示した。この背景には,日本における社会的・文化的役割の性差による影響が考えられる。また,学年差については,男子は中学1年生と比べて小学6年生の方が有意に高い値を示し,中学3年生と比べて中学2年生の方が有意に高い値を示した。一方女子は,中学1年生と比べて小学6年生の方が有意に高い値を示した。この背景には進学による新しい学校環境や学習環境の変化による影響,ストレス抑制における性差の影響が考えられる。