2024 年 27 巻 1 号 p. 7-19
【問題と目的】現在,不登校児童生徒の割合は増加の一途を辿っており,中学校での出現率は小学校の3倍超であり対策が求められている。中学生は,家庭から社会へと居場所を求めていく時期であり,その居場所の重要性が指摘されている。そこで,居場所に関連する本来感,被受容感,基本的自尊感情,学校生活享受感情,ストレス反応の5つの概念に焦点を当て,それらの全体的影響過程を検討し,中学生の心理的適応を促進するための視座を探ることとした。
【方法】公立中学校3校1, 2年生1,048名(有効回答数908名)を対象にWeb調査を行った。使用尺度は,被受容感尺度(杉山・坂本,2006),本来感尺度(伊藤・小玉,2005),基本的自尊感情尺度(近藤,2010),学校生活享受感情測定尺度(古市,2004),ストレス反応尺度(三浦,2002)である。
【結果】5要因間の全体的影響過程を共分散構造分析により検討した結果,被受容感は,本来感と基本的自尊感情の下位尺度である「自己肯定感の高さ」,「自己否定感の低さ」に対する影響を示した。また,「自己肯定感の高さ」は本来感と学校生活享受感情に,「自己否定感の低さ」は本来感とストレス反応に対する影響を示した。さらに,本来感は学校生活享受感情とストレス反応に対する影響を示した。
【考察】本来感がどの要因とも関連していることが示された。被受容感と基本的自尊感情が本来感を高め,それが一体となって,学校生活享受感情を高め,ストレス反応を抑制することが実証された。このことから,不登校未然防止策として,被受容感,基本的自尊感情をも伴う本来感育成を目的とした教育的介入のあり方を検討することが必要と考える。なお,基本的自尊感情については,属性分析や共分散構造分析結果により,ポジティブ項目で構成される自己肯定感の高さと,ネガティブ項目で構成される自己否定感の低さに何らかの質の違いがあることが示され,今後の検討の必要性がある。