2025 年 28 巻 2 号 p. 255-266
【問題と目的】本研究の目的は,大学受験の失敗経験をポジティブに捉え直すことを促す介入として,ポジティブな転換的語り直しの効果を検討することであった。また,ポジティブな転換的語り直しを行う際に,焦点を当てる時点の影響についても探索的に検討した。なお,従属変数として心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)とトラウマ反応を用いた。
【方法】予備調査として,地方国立大学の大学生560名に大学受験を成功と失敗で評価すること,IES-R-Jに回答すること,大学受験の失敗と聞いて浮かぶ単語を書くことを求めた。また,大学受験を失敗と評価した人々のうち19名を対象に,1週間の間隔で計3セッションの実験を実施した。セッション1では,両条件ともに何も操作せず体験を語らせた。セッション2では,過去に焦点を当てる条件と未来に焦点を当てる条件に分け,体験のポジティブな転換的語り直しを行わせた。セッション3では,両条件ともに何も操作せず再び体験を語らせた。
【結果】予備調査において,地方国立大学の大学生では過半数が大学受験を成功と評価すること,失敗と評価した人々のIES-R-Jの合計得点の平均値は21.06であることが示された。本実験において,各セッション後におけるPTGI-J得点およびIES-R-J得点について2要因混合計画の分散分析を行った。その結果,IES-R-Jの「回避症状」の因子得点で有意なセッションの主効果が見られ,多重比較の結果から,セッション3はセッション1と比べて得点が低いことが示された。また,PTGI-Jの「人間としての強さ」とIES-R-Jの「侵入症状」の因子得点で有意傾向のセッションの主効果が見られた。多重比較の結果から,「人間としての強さ」ではセッション3がセッション1と比べて得点が高いこと,「侵入症状」ではセッション3がセッション1と比べて得点が低いことが示された。
【考察】本研究を通して,ポジティブな転換的語り直しは大学受験の失敗経験をポジティブに捉え直すことにつながる可能性が示唆された。今後の研究では統制群を用いるなど手続き上の課題を乗り越え,本研究で見出された知見を確証することが必要であろう。さらに,不本意入学生を対象とした事例研究を通して,介入効果を実践的に明らかにすることも望まれる。