2010 年 7 巻 p. 43-46
解離性障害は、過去の記憶や自我同一性の正常な統合が、部分的あるいは完全に失われる疾患である。一般に直接的な注意の対象として選択される記憶や感覚は、正常ではかなり意識的にコントロールされているが、解離性障害においては、意識的で選択的なコントロールを行う能力が損なわれていると推定されている。解離性障害は、起源においては心因性であり、外傷的な出来事や解決しづらく耐え難い問題、あるいは障害された対人関係と密接に関連していると考えられている。
本症例は、表面的には患者が周囲に勝利を強く期待された試合で敗れたことを契機に発症した解離性健忘と考えられた。しかし初めて解離症状を発症してから約5年の歳月が経過しており、解離性健忘に至るまでに保護者を含む多くの指導者が、患者の解離症状を何度も目の当たりにしていた。また患者自身も強いストレスを自覚し、時に保護者に相談していたが、それまで特別な配慮はされていなかった。
これらの経験から、患者のストレス対処能力の形成をはじめ、スポーツ領域における精神保健において、早期の精神医学的な介入が必要であったと考えられた。また再発予防のためにも、精神医学的な心理教育が不可欠であると考えられた。