2004 年 20 巻 1 号 p. 74-85
国の規模が穀物の自給率に与える影響を調べた。とくに、先行研究で不明であった規模効果の内容と源泉を明らかにすることを主な課題とした。157カ国、1994-98年時点の国別集計データによるクロスセクションの国際比較分析を行った。人口は穀物自給率の規定要因分析における国の規模の適切な指標である。回帰分析により、耕地賦存と所得水準を統制した上で、穀物自給率に対する人口の寄与がプラスであることが確認された。次に耕地賦存、所得水準を統制した偏相関分析の結果から、人口が大きい国では、土地節約的な増産による輸入代替的なパターンによって、小さい国と同程度の消費水準を保ちながら、高い自給率が実現していることが明らかとなった。また、規模効果は①国レベルの外部効果であり、②輸送コストではない自給促進的要因であり、③競争優位に貢献しない。こうした特徴は何らかの政策介入、特に国内農業保護を示唆していると考えられる。そこで26ヶ国、82-87年時点のデータを用いて農業保護率(穀物の%PSE)の回帰分析を行った結果、人口と%PSEには正の偏相関があることがわかった。こうした分析結果と国際貿易論で一般的に挙げられる規模効果の源泉は一致しないため、一般の産業とは異なる特殊要因が働いていると考えられる。大きな国ほど国際市場の供給制約が厳しいため、安全保障上の理由から自給指向が強まり、それが高い保護率にも反映しているのだと解釈できる。