論文では、農林水産業と環境との関わりに着目しつつ、世界の食料安全保障問題、農林水産業の環境影響、そして食品安全問題などを中心に検討する。農林水産業と環境との関わりについては、農林水産業の営みが環境に対してどのような影響を及ぼすのか、そして、地球温暖化などの環境変動が農林水産業にどんな影響をもたらしてきたのかという2つの側面から論じなければならない。実際、20世紀後半の農林水産業の技術進歩は人類に豊かさとともに、さまざまな負の遺産としての環境問題をもたらしてきた。とくに発展途上国における農林水産業では、貧困に起因する資源の劣化や環境の悪化は深刻であり、各地でその影響は顕在化しつつある。環境問題は長期的には食料不安につながる新たな制約条件として無視できなくなっているのである。さらに、農林水産資源の劣化と環境の悪化は食品の安全性を脅かす要因の1つとなっている。そこで、農林水産業のもたらす環境への負荷を減らし、自然環境あるいは生態系と調和させつつ、経済的・社会的にも持続可能で循環型のシステムをどのように構築するのか、つまり、人と自然にやさしい「環境保全型農(林水産)業」への転換が求められている。環境と調和する持続可能な農林水産業の構築のためには、法制度面、技術面、社会システム面からの見直しが不可欠なのである。