抄録
マクロ環境会計は、国または地域を対象とし、経済活動と環境の関係を体系的に記述する環境評価ツールで、海外を含め各国において開発が進められている。マクロ環境会計を農林業に適用することで、貨幣単位もしくは物量単位で国または地域における農林業と環境の関係を包括的に捉えることができ、対象地域における環境情報を体系的に記述し、国民や地域住民さらには農林業経営者にわかりやすく農林業の生産活動と環境の関係を示すことができる。しかしながら、マクロ環境会計は未だ開発途上の段階にあり、実際に数値を計上し、分析ツールとして利用するためには、未だいくつかの課題が残されている。また、農林業への適用に関しても、同様に解決しなければならない課題がある。例えば、農林業独特の機能である多面的機能の存在は、それまでマクロ環境会計が対象としてきた環境負荷の計測という領域を越え、環境便益の計測も必要となる。したがって、農林業にマクロ環境会計を適用するためには、会計フレームワークを改良し、農林業向けの環境会計を新たに構築する必要がある。マクロ環境会計を農林業に適用する研究事例は、これまでにいくつかあり、それぞれの分析目的に応じて会計フレームワークを改良し利用しやすくしている。本稿では、マクロ環境会計の仕組みを解説し、農林業と環境の影響を評価した研究事例を紹介する。