抄録
日本農業は、グローバル化の中で全般的に生産減少、販売価格低迷などの厳しい環境におかれている。日本農産物は高価格という認識の下で、守勢的な議論が中心になっている。しかし、日本農業の環境悪化の中でも輸出され続けてきた農産物がある。その作目を対象に、持続的に輸出できた背景と要因、残されている課題を検討し、日本農産物輸出の可能性を模索した。そこで、本論文は、積極的に海外輸出を行い、県出荷量の18%まで輸出した経験がある鳥取県梨産地の調査を行った。その調査をもとに、画期別に鳥取県の二十世紀梨輸出システム構築の過程及び輸出環境への対応などを検討した。さらに、1997 年以降の輸出量の減少要因を変化した輸出環境と産地のマーケティング戦略の2 視点で検討した。 日本における海外輸出は、生産者にとって、縮小している国内市場での需給調整及び販路確保という重大な意味をもっている。生産者・JA 全農とっとり・関連機関は、輸出が困難な時期にも、輸出の利点を共に理解し、そのリスクを共に負担し、輸出が継続できるシステムを構築した。二十世紀梨の輸出に対する認識及び対応は、出荷単位となる梨選果場別に異なる。輸出に積極的な梨選果場では、輸出により20%の所得増がみられた。輸出に消極的な梨選果場でも、輸出の有効性は、認識されている。梨生産農家は、梨選果場別及びJA 全農とっとりの積極的な取組による輸出システムの構築・維持によって、輸出効果を享受できた。鳥取県の二十世紀梨輸出は、県レベルの産地努力で、海外輸出システムを構築することによって、県内の生産基盤を維持する1 つの方策を示しており、今日の日本農業へ1 つのインセンティブを与えている。