抄録
主に異常気象から生じる収量変動は農業経営上の主要なリスクである。農業生産者は栽培管理を通じて収量被害を減らそうと試みるため、収量被害の特徴は農家や集落の社会・経済特性と関係があると考えられる。そうした関係の理解は、効果的な農業政策を検討するうえで重要であるだけでなく、その関係を被害評価モデルに組み込むことで、農業生産に対する温暖化の影響評価をより現実的なものへと発展することが期待される。そこで本研究では、水稲の収量被害と集落の社会・経済特性との定性的な関係の解明を目的とする。解析の結果、被害の強度と年々変動は共に、自給的農家率が高く、経営水田面積が小さく、耕作放棄面積が多く、高齢農業人口割合が高く、若年農業人口割合が低い地域で相対的に大きいことが示された。こうした傾向は地形条件が異なる場合でも一貫している。相対的に大きな被害量と年々変動を説明するために、次の二つの仮説を提案した。一つは高齢化からくる労働力の量あるいは質の低下、もう一つは低い農業収入比率からくる手厚い管理を行う意欲の低さ、である。この仮説は、販売農家は確保された労働力と自助努力により被害を軽減している一方、高齢農家は、労働資源と意欲の不足から十分な栽培管理を断念しているという可能性を示唆している。