システム農学
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研究論文
イノシシ餌付け禁止条例施行前後におけるイノシシ出没状況の変化と住民意識
―神戸市東灘区を事例として―
布施 綾子
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2011 年 27 巻 2 号 p. 55-62

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抄録

都市部におけるイノシシによるヒトへの危害防止を目的として、2002 年に神戸市において日本で初めて「イノシシ餌付け禁止条例」が制定された。条例が施行され8 年以上が経過したが、条例制定の前後でイノシシの出没状況がどのように変化したかは明らかにされていない。本研究の目的は山林に隣接した神戸市六甲山南部の市街地のイノシシの出没状況と住民の意識から、イノシシとヒトとの関わり方について検討することにある。まず、条例施行前の2000~2001 年に神戸市東灘区天上川流域にてイノシシの出没状況を調査した。次に、条例施行後の2009 年9~12月に、イノシシの出没現場踏査、インタビュー調査、アンケート調査、イノシシの追跡調査、イノシシに対するヒトの意識調査を行った。結果は、条例施行後は道路上でのイノシシ出没頻度は減少し、イノシシへの間接的な餌付け場所となるゴミ集積場での被害も減少することを示した。一方で、河床に生存するイノシシの個体数は増えていることが観測され、河床の段差工の高低差が大きく山に帰る事ができず封じ込め状態にある事が明らかになった。また、市民の条例に対する認識度は74%と高いにも関わらず、天上川河床に生息するイノシシへの直接的な餌付け行為は継続されていた。河床のイノシシに対するヒトの意識は好意的なものが多く、餌付けは感情に基づいたものと言える。餌付け禁止条例の効果はある程度認められたが、今後イノシシとヒトとの適切な関わりを構築するには、イノシシの生息環境やヒトの感情に配慮した施策が求められる。

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