抄録
近年、環境への配慮と健康志向の高まりから自然農法や有機農業が注目されている。こうした農法は無農薬、無化学肥料で行われるため、エネルギー投入が少ないと考えられる半面、除草や水田管理に多くのエネルギーを費やしていることが予想される。したがって、本研究ではこうした無農薬、無化学肥料で行われている水稲栽培農家の実態を調査し、そのライフサイクルにおけるエネルギー消費量を明らかにすることを目的とした。本研究では、愛知県新城市で有機農業を行っているA、B 農家と、岐阜県白川町で有機農業を行っているC 農家及び同町で自然農法を行っているD 農家を調査対象とした。いずれの農家も中山間地域に位置する0.5 ha 未満の小規模農家であり、各農家ともに無農薬・無化学肥料による栽培を行っている。また、各農家では、手作業や天日干しを取り入れており、特に、B、C 農家では、消費者や学生とこうした農作業を通じて交流している。本研究では、これらの農家と既往研究の15 ha と大規模で化学肥料や農薬を用いて行われる慣行栽培を比較した。その結果、調査した農家の単位面積当たりのエネルギー消費量は、4.3~9.5GJ/ha と、各農家の取り組みで大きな差が見られた。さらに、各農家では、天日干しや手作業による作業が行われていることから慣行栽培と比較して少ないエネルギー消費量であることが明らかとなった。このような結果から、本研究は、消費者との交流や、伝統的な農法(天日干し)、無農薬・無化学肥料で行う水稲栽培の経験年数が水稲栽培のエネルギー消費量を低減する要因となっていることを示した。