1991 年 7 巻 2 号 p. 48-64
沿岸域は、漁業、海上交通、工業、都市、レクリエーションなど多岐にわたって利用されてきたが、近年のウォターフロントに対する関心の高まりと海洋資源開発における科学技術の進歩は、その利用形態をますます多様化させて、その価値が見直されようとしている。国土が狭小で資源に乏しいわが国にとって、沿岸域は貴重な資源であり、将来にわたって適切な利用が図られなければならない。しかしながら、その沿岸域は、これまでの急激な都市化、工業化により、すでに深刻な沿岸域資源の崩壊と海域の汚染にみまわれている。特に、瀬戸内海、東京湾、伊勢湾等の閉鎖性海域は、背後地に人口、産業の集中が著しいこと、閉鎖性海域のため水交換が悪いことなどの要因も手伝って、水質汚濁のレベルが高く、有機物や栄養塩類の流入、蓄積による富栄養化が進行している。本研究は、瀬戸内海播磨灘沿岸域を事例研究の対象として、沿岸域資源の持続的利用と適切な環境保全を探るための実証モデルを開発することを目的としている。特に、沿岸陸域の土地利用及び産業活動と、沿岸域の空間資源及び生物資源で構成される生態系のメカニズムとの相互作用を解析できるような経済・生態系モデルを考察し、政策立案者に、沿岸域の利用と資源制約の関係、沿岸海域における汚濁物質の蓄積と生物資源のダイナミックな変動などについて、総合的な検討ができるような手段を提供するものである。