抄録
【目的】ラットを用いた放射線性直腸粘膜障害の動物実験モデルを作成し,直腸炎の評価を行う.また,亜鉛化合物を主薬とした坐剤の製剤化と投与方法を確立する.【対象・方法】実験には 6 週齢ラットを用いた.ガストログラフィンを用いたX線透視を行い,放射線照射が非開腹倒立位で直腸に対して選択的に可能であることを確認した.ラットを麻酔下,無麻酔下で,直腸温度を測定し,坐剤の融点との適合性を確認した.陽性造影剤添加軟膏を直腸内に投与して,X線透視下で直腸内での軟膏の付着と拡散を確認した.放射線照射は照射野を長径2.5cmと設定し,10MeVの電子線による22Gy/frの 1 回照射を施行した.亜鉛製剤はポラプレジンクを坐剤として製剤し,照射当日から 7 日目まで投与した.下痢・下血などの臨床症状を経時的に経過観察した.照射後 7 日目に直腸内視鏡を行い,10日目で安楽死させて直腸を摘出した.直腸粘膜を内視鏡および肉眼的に観察することで,直腸粘膜の変化を評価した.【結果】倒立位では直腸以外の腸管は頭側に偏移しており,放射線照射がラット直腸に対して選択的に可能であると確認できた.ラット直腸温は麻酔により,34.9°Cに低下していた.陽性造影剤添加軟膏は注入直後,10分後,ともに直腸内に十分に停留することを確認できた.内視鏡による所見と摘出標本の所見は一致していた.臨床所見,内視鏡所見,標本所見とも,亜鉛製剤を投与されなかった群で重篤な障害の発現率が高く,亜鉛製剤投与群で軽症の傾向を認め,放射線性直腸粘膜障害に対する亜鉛製剤の有効性が示唆されたが,有意差は認めなかった.【考察・結論】本実験系が放射線性直腸粘膜障害の動物実験モデルとして有用であると確認できた.放射線性直腸炎に対する亜鉛製剤の有効性が示唆された.剤形は,薬剤の付着性から,坐剤より軟膏が適切と考えた.今後,投与方法や観察期間の検討を要する.