抄録
本論文の目的は、起業と文化の関係性という視点から先行研究を理論的・体系的に整理し、その理論的貢献と限界を提示することである。先行研究において文化と起業の関連性は、「動機の源泉としての文化(2.1)」と「社会/集団の編成原理としての文化(2.2)」のという二つの視角から議論され、研究が蓄積されてきた。本論文ではこれらの研究の理論的レビューを通じて、先行研究において起業と文化の関係性が、社会化と制度化という概念を用いることで、起業の実践を通じて文化が形成-維持されるとする、再生産モデルに基づいて展開されていることを指摘する(3.1)。この再生産モデルは、特定の組織/集団において起業が連鎖するメカニズムを、組織/集団内の閉じた再生産プロセスとして捉えている。そのため、一度組織/集団内部で、起業を介して文化が再生産される状況が成立すると、その再生産プロセスに変更される現象を捉えることが困難になる。本論文では、この理論的限界を克服する方向性として、二つのアプローチを提示する(3.2)。