抄録
本稿の目的は、起業家特有の解釈方法によって認識されたストレスとストレス対処における意味生成(meaning)の様相を明らかにすることである。そのため、大学在籍時に創業した2名のシード期の起業家を事例とし、ストレスを感受概念とした上で継続的なインタビューを実施した。結果として、二つのことが明らかになった。第一の発見事実は、起業家のストレスは達成すべき成果と引き受ける責任を重要視すればこそ強く認識されるということであった。また、起業家当人による自省や周囲からの圧力によってストレスが強化されることも発見された。第二の発見事実は、ストレスの活用、受容、要因の調整という3つのパターンによってストレス・コーピングを行なっていることであった。以上により、起業家のストレス認識に大きく関わる要因と、ストレスをゼロに近づけるのではなく一定程度保有して起業家の活動が行われることを明らかにした。今後は、起業家の活動プロセスにおける具体的な領域とストレスとの関係、認識の変化を対象とする分野との整合性について検討していく必要がある。