2011 年 2011 巻 21 号 p. 130-138
2009年4月に改正されたゴーイング・コンサーン(GC)に関する注記・監査等制度の下で,重要事象等の認識から「重要な不確実性」の評価に至る判断過程には,質的に異なる三つのステップ(①足許のキャッシュ・フロー創出力,②足許のバッファー余力,③先行きの経営改善策の帰趨)を識別可能である。監査人は,経営者のGC開示情報に対する評価軸を形成するに際し,③の領域には見積りの監査の範囲でしか対応できないが,①と②の領域については,経営者の開示・評価情報以外にも,監査過程で監査人の懐に蓄積された独自情報(Bucket情報)をも基礎に置くと考えられる。そこで活用されるBucket情報は,新しい制度の下で経営者への指導・助言機能を通じて,GC注記とともに,GCリスク情報としての開示にも役立てられ得る。監査人は,監査業務の専門性の枠組み・責任限定の中で,開示促進に向けた経営者の意識啓蒙に貢献する余地が広がっている。