2013 年 2013 巻 23 号 p. 143-154
本稿では,監査人の保守性(auditor conservatism)という見地に基づいて監査人の交代を捉え,監査人の交代が監査人の保守性の表れる契機の1つとなる可能性を実証的に検証している。
裁量的会計発生高を用いた実証分析の結果,監査人を交代した企業は交代していない企業に比べ,監査人交代後により保守的な財務報告数値を計上する傾向にあることを示す証拠が得られた。
また,前任監査人を規模別に大手監査法人とその他の監査人とに分類すると,前任監査人がその他の監査人である交代企業はその他の企業に比べ,監査人交代後により保守的な財務報告数値を計上する傾向にあることを示す証拠も得られた。これらの結果は,監査人の保守性の一側面である財務報告数値の保守性が,監査人交代後に見受けられることを示唆しているとともに,後任監査人の保守性は前任監査人の規模による影響を受けている可能性があることを示していると考えられる。