会社法は,会計監査人の身分的安定性を確保するための方策を講じ,反射的に,金融商品取引法上の監査人の独立性が担保されている。しかし,─とりわけ,不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合には─監査手続きの追加が必要となるが,経営者が監査報酬を決定することとされていると,監査手続きの追加に対応する報酬の増額は実現しにくいし,報酬の増額を求めることは隠ぺい工作の必要性を認識させることになる。また,監査報告書の提出期限の硬直性は,実効的な監査を妨げ,あるいは意見不表明を増加させるおそれがある。さらに,公認会計士の職務遂行に関連して十分なセーフ・ハーバーを設けないと,監査人間の引き継ぎなどが適切になされないことにつながりかねない。他方,新実務指針は監査人の任務を拡大するとともに,中小企業の計算書類の信頼性を高めるという観点からの準拠性の枠組みを前提とする監査の可能性を示唆しているようにも思われる。