監査報告書の標準様式は範囲区分記載事項の長文化・詳細化へと変化を遂げてきた。しかし,長文化の対象は監査の性格・責任・限界に関わる定型的記載事項に過ぎず,無限定適正意見が表明されている場合,監査報告書は監査人の名称と監査人交代の有無に関する記載にしか関心がないという利用者の批判もある。
現在,IAASBやPCAOBなどで進められている監査報告書改訂の議論は監査報告書の変革ともいうべき内容を含み,これまでの監査報告書長文化とは一線を画する,監査報告書の個性化への新たな改革ということができよう。監査報告書の個性化は監査報告書の性格をopinion report からinformation reportへと転換させることを意味する。監査報告書の情報提供機能重視の視点はこれまでも監査論研究者の間で主張されてきた。
本稿では,情報提供機能重視の立場から展開されてきた監査報告書論・適正表示の監査論をベースに,標準監査報告書の展開と絡めながら,監査報告書変革の方向性を提示したい。