現代監査
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2015 巻, 25 号
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  • ─日本の監査報告書論の展開から見た監査報告書変革の方向性─
    朴 大栄
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 26-37
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/24
    ジャーナル フリー

    監査報告書の標準様式は範囲区分記載事項の長文化・詳細化へと変化を遂げてきた。しかし,長文化の対象は監査の性格・責任・限界に関わる定型的記載事項に過ぎず,無限定適正意見が表明されている場合,監査報告書は監査人の名称と監査人交代の有無に関する記載にしか関心がないという利用者の批判もある。

    現在,IAASBやPCAOBなどで進められている監査報告書改訂の議論は監査報告書の変革ともいうべき内容を含み,これまでの監査報告書長文化とは一線を画する,監査報告書の個性化への新たな改革ということができよう。監査報告書の個性化は監査報告書の性格をopinion report からinformation reportへと転換させることを意味する。監査報告書の情報提供機能重視の視点はこれまでも監査論研究者の間で主張されてきた。

    本稿では,情報提供機能重視の立場から展開されてきた監査報告書論・適正表示の監査論をベースに,標準監査報告書の展開と絡めながら,監査報告書変革の方向性を提示したい。

  • 蟹江 章
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 38-49
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/26
    ジャーナル フリー

    国際監査・保証基準審議会(IAASB)による監査報告書の改革によって,監査における監査人の判断過程を透明化するために,監査報告書に「監査上の主要な事項(Key Audit Matter ; KAM)」を記載するという実務が導入されることとなった。KAMの決定に際しては,監査人と会社のガバナンス機関とのコミュニケーションが前提とされ,財務諸表の信頼性確保に関するガバナンス機関の責任が明確化された。また,監査報告のプロセスにガバナンス機関が関わりをもつことにもなった。

    その一方で,KAMの記載に類似した制度を先行実施するフランスやイギリスの例を見ると,KAM記載の形式化や記載内容のマンネリ化が懸念されるため,KAM導入の目的を効果的に達成するためには,こうした課題の克服が必要となろう。

  • 住田 清芽
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 50-61
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/27
    ジャーナル フリー

    2015年1月に,監査報告書の記載内容を大幅に変更する国際監査基準(ISA)が公表される見込みである。改正ISAは,監査意見に加えて,監査人が被監査会社の当期の監査において最も重要と判断した事項(監査上の主要な事項(KAM))を上場企業の監査報告書に追加的に記載することを求めており,被監査会社の監査に特有の情報が記載されることになる。これは,従来の定型的な監査報告書からの大きな変革であり,監査実務だけでなく,財務報告プロセス全体に大きな影響を及ぼすことが想定される。

    KAMに象徴される監査報告の改善は,経済社会における財務諸表監査の価値及び目的適合性を維持する上で重要と位置づけられている。利用者の視点に立って監査報告書の情報価値を高め,同時に,監査の透明性の向上により監査品質,最終的には財務報告の質の向上をもたらすことが期待されている。その際,ISAに先行して,企業開示制度全体を見直し,コーポレート・ガバナンスの強化とともに監査報告書の改正を行っているUKの取組みが参考になる。

  • 黒沼 悦郎
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 62-69
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/28
    ジャーナル フリー

    国際監査・保証基準審議会の国際監査基準701は,財務諸表監査において監査人が重要であると判断した項目(KAM)を,統治責任者とのコミュニケーションを通じて決定し,監査報告書に,KAMに該当する事項,当該事項がKAMに該当すると考えた理由等を記載することを求めている。

    本稿は,監査基準701をわが国で導入する場合,KAMの決定と記載について監査人はどのような法的責任を負うかを検討する。監査人が会社に対して責任を負うか否かは,監査基準701の導入によって監査人の任務に変更が生じるかどうかによって決まる。これに対し,現行の虚偽の監査報告に対する民事責任規定からすると,KAMの記載について監査人が投資家に対し責任を負う可能性は低い。

    KAMの記載として何を求めるかは,監査報告書の機能の捉え方によって異なるが,監査報告の透明性を高めるというKAMの目的だけから考えても,KAMへの対応を記載する必要性が導かれる。

  • 吉見 宏
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 70-76
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/29
    ジャーナル フリー

    ミサワホーム九州の粉飾経理事例は,被監査会社に対して課徴金納付命令が出された比較的初期の事例である。一方,この事例では,その不正発見を含めて監査人が積極的な働きを示したものと認識されている。その中で,課徴金制度が果たす役割と,監査にとっての課徴金制度の積極的機能を検討する。

  • 深井 忠
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 77-85
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    同じ月でも舟の進む方向により異なって見えるように,ある取引の会計処理に関する判断も立場を異にする経営者,金融庁及び監査人の間で異なり得る。しかし,上場会社の財務報告に話を絞ると,これらの判断主体が区々に判断しているだけでは投資家保護という金融商品取引法の目的が十分に達成されない懸念がある。本稿で取り上げるビックカメラ(及び同社の元会長)の課徴金事案では,正にこれと似たような事態が生じた。同社の行った不動産流動化取引に関する各判断主体の適正性を巡る判断は真っ向から対立した。適用すべき会計基準,直ちに違法性を帯びない実体的裁量行動といったいわば本事案の特性を考察しながら,投資家保護の実現に向けてイニシアティブをとるべき監査人に焦点を当て,ことに事後的には解決困難な実体的裁量行動を未然に防止するために監査人は如何なる判断姿勢をとるべきかについて検討する。

  • ─株式会社ビックカメラの課徴金納付事例を取り上げて─
    成田 礼子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 86-94
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー

    株式会社ビックカメラは,平成21年2月に不動産流動化の会計処理を修正し,有価証券報告書の訂正報告書を提出し,平成21年7月,金融庁長官は,会社に対し,課徴金納付命令を決定し,会社は課徴金を納付した。

    平成22年2月,会社の株主1名が,上記会計処理により,会社に損失を与えたとして株主代表訴訟を提起した。当該訴訟に会社は被告側へ補助参加し,当初の会計処理は適正であったと主張した。

    平成25年12月,東京地方裁判所は会社の主張を認め,原告の請求を却下又は棄却した。その後,原告は控訴したが,平成26年4月に,東京高等裁判所は控訴をいずれも棄却した。

    本事案は,当初の会社処理と監査判断,修正後の会社処理と監査判断が異なり,金融庁の判断と裁判所の判断が異なっているケースである。会計処理は会計事実,会計慣行をどのように判断するかにより異なるのである。

  • 髙原 利栄子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 95-103
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

    わが国における金融商品取引法にもとづく財務報告に係る内部統制の報告および監査制度が始まり6年が経過している。同制度は先行する米国と比べ,企業に対する導入コストを軽減でき,経営者に対して不正問題に対する取り組みを意識するきっかけになったことは明白であるが,さらなる進展のために,監査理論の観点からいくつかの検討すべき課題がある。そこで本稿では,内部統制監査は基本的には財務諸表監査と相俟って,財務報告の信頼性付与に貢献するものであるという視点に立ち,米国の両監査の統合監査におけるリスク・アプローチに関する研究を手がかりに,内部統制監査の特質を考慮した内部統制監査モデルについて検討するとともに,財務諸表監査と内部統制監査との関係について若干の考察をしている。

  • 山田 善隆
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 104-112
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    金融商品取引法の下での「開示すべき重要な不備」の開示は,必ずしも潜在的なリスクを伝達するものとはなっていないが,内部統制報告制度は,経営者の内部統制に対する責任の自覚と真摯な対応をもたらした点で,監査環境の向上に貢献している。

    内部統制監査と財務諸表監査の一体化の推進は監査の有効性と効率性を高めるが,インダイレクト・アプローチの下では,経営者の内部統制の評価範囲や手法が一体化の制約条件となる。外部監査人は,そのような制約を解消するために経営者との緊密な調整を行っていかなければならない。

    今後は,経営者が内部統制をアカウンタビリティの問題としてとらえ,実施基準の例示等にとらわれない企業毎の特性に応じた内部統制評価を行っていくことが期待される。このような取り組みは,外部監査人にとっても,企業の特性を踏まえた財務諸表監査と内部統制監査の一体的実施を通じて監査の有効性と効率性を高める契機となる。

  • 亀井 信吾
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 113-123
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    平成26年6月の会社法改正において監査役制度を巡る多くの改正がなされ,企業集団の内部統制システムの整備が取締役の義務として会社法上に明記されるようになったことなどを受けて,監査役制度が社会的に注目されるとともに,企業の内部統制システムは監査役の業務監査の対象としてますます重要なものとなってきている。本稿は,大阪ガス株式会社における監査役による内部統制システム監査の実例に基づく概要を説明するとともに,会社法改正や関連政省令改正に照らして課題抽出した項目である,情報収集の体系やルール,内部統制部門との連携,会計監査人との連携,監査役会規程及び監査役監査基準のあり方,企業集団の内部統制,海外子会社の内部統制のそれぞれに関して,大阪ガス株式会社において実施済みである監査役監査の実例,及び検討されている改善方針やそのための具体的施策案等について簡潔に解説するものである。

  • 武田 和夫
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 124-132
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/06
    ジャーナル フリー

    本稿は,内部統制監査と内部監査の関係性,特に監査人と内部監査部門の連携について考察するものである。内部監査が一定の水準で実施された場合,効果的かつ効率的に監査を実施する観点から,内部統制監査においては可能な限り内部監査人のアシュアランス業務を利用すべきだといわれている。その際,監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」に準拠し,監査人が利用できる5つの条件を整えた内部監査機能を会社が設置していることが必要となる。

    内部監査は,本来,マネジメント・ツールとしての目的をもつのであって必ずしも財務報告の信頼性のみを常にその目的とするのではなく,複数の目的をもった内部監査部門を設置した場合に発生するコスト負担が1つの焦点となる。また,客観性,専門的能力,正当な注意に関して,経営者は内部監査部門をどのようなガバナンス体系の中に組み込み,どのような人員計画を採用するかが重要となる。コミュニケーションに関しては,内部監査部門から監査人へのアプローチだけではなく,監査人と内部監査部門の双方向性を考える必要がある。

  • 上原 優子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 133-142
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    英国のチャリティは民間公益活動の主体であり,長い歴史を有するともにこれを支える制度も成熟している。チャリティの内部監査の状況を研究することは,わが国の非営利・公益組織における内部監査のあり方を検討する上で非常に有益であると考えられる。本稿では,英国にはさまざまなレベルでチャリティの内部監査を効果的なものとするために支援する機関が存在することを示し,具体的に英国勅許内部監査人協会,チャリティ委員会,チャリティ内部監査ネットワークの3つの組織の概要と役割について説明する。その上で,チャリティ内部監査ネットワークが実施した内部監査の調査データを活用しながらチャリティの内部監査の状況についてまとめ,わが国の非営利・公益組織が発展する上で内部監査機能を効果的に取り入れる手がかりを模索する。

  • 島﨑 主税
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 143-150
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/11
    ジャーナル フリー

    IIA(The Institute of Internal Auditors)の「基準」は,総合的意見について定める一方で,監査対象の選定段階と個々の監査業務の計画段階の双方において,リスク・ベースのアプローチを採用することを求めている。この点,上記総合的意見の表明は強制されるものではないが,近年は特に,取締役会が行うERMに対する監視活動の実効性を担保することとの関係で期待される状況にあるとみられる。他方で,財務報告に係る内部統制の監査においては,その有効性についての総合的意見が表明される。このため,内部監査がERMに係る総合的意見の表明を視野に入れようとする場合,その考え方を踏まえることは十分に適切と思われる。こうした認識を基礎に,内部監査が総合的意見を形成する場合のリスク・ベースのあり方についての提言を示すものである。

  • 島田 裕次
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 151-161
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/11
    ジャーナル フリー

    ビッグデータは,ICT(情報通信技術)の発展に伴ってその解析や活用が可能となり,企業等におけるビッグデータの利用に際して新たなリスクが発生している。内部監査の実務家は,ビッグデータについて関心をもっており,監査の必要性は感じているものの監査手法について悩んでいるのが現状である。本研究では,ライフサイクルの視点からビッグデータの利用に関わるリスク及びコントロールを整理し,システム監査でのチェックポイントを検討する。企業等の組織体は,ビッグデータを活用して組織体の目標達成につなげることを目的としているので,ビッグデータを対象とした監査を実施する場合には,ビッグデータ利用の目的に着目した監査アプローチが必要になる。そこで,目的に着目した問題解決手法であるブレイクスルー思考を用いた監査アプローチも提示している。なお,本研究では,内部監査実務家の認識状況を明らかにするためのアンケート調査を実施して現状の解明も行っている。

  • 中村 元彦
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 162-170
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー

    今日の企業活動において,会計システムなどITを利用している企業は多数を占めている。公認会計士等における会計監査では,この状況を踏まえ,CAAT(Computer-assisted audit techniques)を利用するケースが増加している。母集団を試査によって推定するのではなく,精査(限定的精査)によって母集団自体を対象として評価することが可能となるとともに,試査によるサンプリングリスクの問題にも対処できる。また,実務では仕訳テストとして会計期間の仕訳の全データを電子媒体で入手し,検証することが多いが,これもCAATを活用しなければ実現することはできない。さらに,限定的精査の応用としての継続的監査やCAATの新しい適用手法としてのDual Trackingを導入することができれば,監査における早期化に一定の効果が図られるとともに,深度ある監査の実現にもつながると考える。但し,実務上での課題が存在するとともに,今後の発展を考えると制度面も含めた対応が必要となってくる。

  • 〜特別目的の財務諸表に対する準拠性監査の導入を契機として〜
    松﨑 堅太朗
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 171-181
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/13
    ジャーナル フリー

    わが国では,従来,中小企業に対する財務諸表監査は広く実施されてはこなかったが,監査基準の改訂により,新たに特別目的の財務諸表に対する準拠性監査の枠組みにより,任意監査として財務諸表監査を実施することが可能となった。一方,米国等では中小企業の決算書に対する信用力向上の方策として,非保証業務であるコンピレーションが広く活用されている。米国等を中心とした諸外国との制度比較を通じ,わが国中小企業の財務諸表に対する保証業務のあり方に関し,検討していきたい。

    検討の結果,中小企業の属性や,財務諸表監査を適用することの実務的課題を考慮すれば,中小企業の決算書の信用力を向上させ,金融機関から円滑に資金調達を行ない,公認会計士が職業会計人として広く活用されていくためには,必ずしも合理的保証である財務諸表監査を求める必要はなく,米国等と同様,コンピレーションを中心とした非保証業務で十分であると考えられる。

  • 島 信夫
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 182-190
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

    会計監査人の損害賠償責任の有無をめぐる判例では,委任の規定が適用される会計監査人の法的立場を重視した判断を下してきた。その法理を示すために,①会計監査人が受任した監査証明の内容を定める判決の手続き,②会計監査人が受任した監査証明を合理的に履行するのに必要な善管注意義務の水準を定める手続きおよび③「二重責任の原則」の下での会計監査人の損害賠償責任の範囲を確定する手続きから検討を加えてきた。その特徴は,権威ある基準等に範を求めて監査証明の一般的性質を明らかにしつつ,会計監査人に明白に瑕疵が認められる場合に善管注意義務違反による法的責任を認める立場を判例は採り続けている。また「二重責任の原則」の適用をめぐる判例には検討の余地があるものの,会計監査人の法的責任をめぐる判例の立場は,法の趣旨を実現するものといえる。

  • ─期中における監査事務所の交代事例を通じて─
    酒井 絢美
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 191-201
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,大手監査法人が監査契約の締結時においてリスク回避的な行動をとるか否かを検証し,もって大手監査法人の行動原理に対して新たな視座を提供することを目的としたケース・スタディである。本稿で取り上げるのは,大手監査法人同士の期中交代という極めて稀なケースであり,Yin[1994]に基づいてリサーチ・デザインを設計した。そして,期中交代において大手監査法人が後任監査人となった要因について,監査報酬と産業専門性という2つの観点から経済学的に検討を行った。その結果,監査契約の締結にあたって後任監査人である大手監査法人は高いリスクを考慮しつつも自法人の強みである産業の顧客を得るという行動をとっており,必ずしもリスク回避的とは限らない可能性が示唆された。

  • 藤原 英賢
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 202-216
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/07/17
    ジャーナル フリー
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