国際監査・保証基準審議会の国際監査基準701は,財務諸表監査において監査人が重要であると判断した項目(KAM)を,統治責任者とのコミュニケーションを通じて決定し,監査報告書に,KAMに該当する事項,当該事項がKAMに該当すると考えた理由等を記載することを求めている。
本稿は,監査基準701をわが国で導入する場合,KAMの決定と記載について監査人はどのような法的責任を負うかを検討する。監査人が会社に対して責任を負うか否かは,監査基準701の導入によって監査人の任務に変更が生じるかどうかによって決まる。これに対し,現行の虚偽の監査報告に対する民事責任規定からすると,KAMの記載について監査人が投資家に対し責任を負う可能性は低い。
KAMの記載として何を求めるかは,監査報告書の機能の捉え方によって異なるが,監査報告の透明性を高めるというKAMの目的だけから考えても,KAMへの対応を記載する必要性が導かれる。