2017 年 2017 巻 27 号 p. 31-39
近年の企業のコンプライアンスに対する社会的期待の高まりは,財務諸表に波及するビジネスリスクを多様化し,監査人が識別・対応すべきリスクのすそ野を広げている。コーポレートガバナンスの視点からは財務諸表監査が経営者へのけん制として機能することも副次的役割として期待されるが,経営者不正への対応は財務諸表監査の本来的役割を果たすためにも重要となる。
現行の監査基準の下でも,経営者不正に対応するための特別な配慮が求められているが,取引の電子化やAI技術などの近年のIT環境の変化は監査人の不正検知力を高めるとともに,監査技法を試査から精査へと回帰させる可能性を有している。
一方,監査の透明化も,監査報告書の長文化と監査事務所の品質管理システムの開示という2つのレベルで進行しつつある。これらの変化は,監査事務所の品質モニタリングの主軸を監督当局による検査から市場メカニズムへ変容させる潜在性を有している。