監査事務所の強制的交代制度は,EUでは現実の施策となっており,わが国でも導入の可否が今後判断される。本稿では,監査事務所の強制的交代制度の導入がもたらす帰結を説明できるモデルを,経営者と監査人をプレーヤーとするゲームとして設定する。プレーヤーの利得は固定的ではない。継続監査期間の長さによって「経営者の初期コスト」「監査人の初期コスト」「監査人の懐疑心維持コスト」等は変わるため,その変化を利得表に組み込む。重要な虚偽表示を見逃す確率は「経営者が利益操作を行う確率」に「経営者が利益操作を行っていることを前提として,監査人がそれを見逃す確率」を乗じて算定されるが,当該確率をゲームの均衡としてとらえ,均衡の推移に着目する。重要な虚偽表示の見逃し率という観点からは,自主的交代より強制的交代の方が望ましいという状況が起こりうる。