2018 年 2018 巻 28 号 p. 21-29
本稿の目的は,近年,見積りの不確実性を逆手にとる経営者関与の不正の手口も目立ってきている状況下,そうした不正に伴う重要な虚偽表示を見逃さない深度ある監査の実現に向け,監査人のインセンティブに着目した制度改善の視点を提供することにある。まず,懐疑心の発揮状況に係る監査人と株主等のエージェンシー問題として,KAM(監査上の主要な検討事項)開示が情報の非対称性解消に資するシグナルとなることを起点に,監査人への開示規律とともに会社にも事前的牽制機能を発揮し得ることを論じる。次に,見積り等に紛れた不正の疑義を監査人が解明していく過程で,経営者と対峙して手続を進める必要が生じた場合に,その足枷となりかねないホールドアップ問題を採り上げ,不完備契約に伴う問題状況の改善に向け,変動報酬契約や監査役等の報酬決定権,金融商品取引法193条の3に係る法令要件明確化,セーフハーバー・ルール導入等の必要性に論及する。