近年では監査事務所の交代理由の具体的な開示が増加しつつあり,「新たな視点(fresh looking)」や「監査継続期間が長期にわたる」ことを理由に監査事務所を交代しているケースも散見された。そこで本稿では,当該ケースを監査事務所のローテーションと捉え,その特性について検討を行った。その結果,内部留保の蓄積が大きい企業ほど監査事務所のローテーションを実施する傾向にあることを示唆する証拠が得られた。また,2019年の制度改正を受けて,監査事務所のローテーションを監査事務所の交代理由として挙げるケースが有意に増加していることも確認されたが,機関投資家の持株比率が大きいほどローテーションを実施することを示唆する証拠は得られなかった。本稿の結果は,現在議論の渦中にある監査事務所のローテーションに関して1つの証左を提供するものである。