2010 年 3 巻 p. 50-69
本稿は,わが国の典型的な30∼40歳代の男性会社員が労働収入を得ている家計を対象に,老後の生活に備えるための長期的な株式投資(資産保有·配分)の決定要因を独自のデータを利用して実証的に分析した.株式保有の有無に関しては,株式投資に対する期待リターン,年収,金融資産額が関連していたが,これ以外にも,金融や経済に関する基礎的な知識の多寡や主観的な株式投資コストの影響が大きかった.株式保有者の株式配分に関しては,株式期待リターン,主観的な株式投資コスト,基礎知識の多寡が重要な影響を与えていた.株式非保有者が今後に株式投資を行うかについては,株式期待リターンとの関連性が大きかった.特に,株式期待リターンは株式保有の有無,株式保有者の株式配分,株式非保有者の今後の株式保有の何れの意思決定にも大きな影響があったが,株式保有·株式配分については,金融や経済に関する基礎知識及び主観的な株式投資コストといった行動経済学的な要因が,過去の実証研究で重要な決定要因とされた年収や金融資産と同様に大きな影響力があることが確認された.