2006 年 57 巻 3 号 p. 283-287
声帯溝症の治療には,側頭筋膜移植術,シリコン注入術,脂肪注入術,音声治療,など多数の報告がある。今回われわれは,甲状軟骨形成術I型+II型を施行し,奏効した症例を経験したので報告する。症例は72歳男性,主訴は嗄声であった。聴覚印象はG(3)R(2)B(3)A(1)S(3),MPTは8秒,F0は191 Hz,ストロボスコピーで両側声帯遊離縁に溝を認め声帯溝症と診断し,溝のより深い左側にI型を施行した。術後気息性嗄声は改善したが,ピッチに関しては満足が得られなく,また溝がわずかに残存していたため,左側のI型の再施行と両側のIV型を追加した。術後はG(1)R(1)B(0)A(0)S(0),MPTが25秒,F0は223 Hzに上昇した。以上より甲状軟骨形成術I型は声帯溝症の声門閉鎖不全を解消するのに有用であった。また,IV型を追加することでより患者の満足がいく音声が得られた。