2021 年 72 巻 4 号 p. 223-230
頸部壊死性筋膜炎は,頸部の筋膜を主座として皮膚・皮下組織や筋肉等に壊死性病変が急速に拡大する,現代でも致死率の高い疾患である。術後の合併症としては嚥下機能障害などが知られている。今回,頸部壊死性筋膜炎術後の著明な誤嚥に対し嚥下訓練を導入し,最終的に常食摂取可能となった症例を経験した。症例は78歳女性。頸部壊死性筋膜炎に対し広頸筋とその周辺組織を含む広範なデブリードマン・分層植皮を行い救命したが,術後著明な誤嚥(PAS, penetration-aspiration scale:7点)を認めた。嚥下訓練として,口腔の送り込み障害に対する口腔運動訓練,喉頭挙上不全に対する舌挙上訓練,開口訓練や頸部可動域訓練,咽頭収縮力の低下に対する前舌保持嚥下訓練などを実施したところ,嚥下機能の改善を認め,最終的に常食摂取可能となった。頸部壊死性筋膜炎後の嚥下機能障害を避けるためには,手術中の神経障害の回避,必要十分なデブリードマンに加え,術後早期からの嚥下訓練の開始が肝要と考えられる。