2022 年 73 巻 1 号 p. 36-42
今回われわれは,約20年前に施行した気管切開術の晩期合併症と考えられる傍気管嚢胞症例を経験した。症例は71歳男性。大動脈解離の治療中に気管切開術を施行された。その後,気管切開孔は閉鎖し,以後症状なく経過した。約20年後,感冒を機に前頸部の腫脹および疼痛が出現した。穿刺吸引により,疼痛は軽快したが腫脹は残存した。他科で実施した頸胸部CTで気管前方に嚢胞性病変を認め,当科を受診した。保存的加療で改善なく,外科的切除を行った。術後病理検体では2つの異なる組織像をもつ内腔を認めた。一方は気管憩室と合致する所見を有し,他方は単純嚢胞の所見であった。病理所見と文献的検討により,気管切開後閉鎖不十分であった気管切開から気管内腔粘膜が逸脱し気管憩室が形成され,気道感染を契機に憩室周囲に気管内の空気が漏出し,仮性嚢胞をきたしたものと考えた。気管切開術に続発して気管憩室を形成した報告は過去に見られないが,術後の治癒過程を考慮すると顕在化していないだけで同様の気管憩室症例が存在する可能性は高いと考えた。気管切開の既往があり,症状を有する患者がいれば,頸胸部CT画像の詳細な読影を行い気管憩室の有無を検索すべきと考えた。