2022 年 73 巻 3 号 p. 216-221
下咽頭原発の脂肪肉腫は稀である。今回われわれは下咽頭に基部を持ち,食道内に進展し嚥下障害をきたした巨大脂肪肉腫の症例を経験した。症例は70歳男性,5カ月前からの嚥下困難,体重減少を主訴に来院。初診時の喉頭ファイバースコープでは咽頭・喉頭に明らかな異常はなかったが,画像精査にて食道内に腫瘍を認めた。食道原発の腫瘍と考え,上部消化管内視鏡を依頼したところ,検査時の嘔吐反射で食道内腫瘍が口腔に脱出した。茎部は下咽頭梨状陥凹であり,下咽頭腫瘍が食道に落下陥入した状態と考えた。全身麻酔下に経口的下咽頭腫瘍摘出術(TOVS)を施行し長径21 cmの腫瘍を摘出した。病理は高分化型脂肪肉腫であった。術後24カ月で局所再発し再手術した。病理は同様であった。高分化型は予後良好な組織型とされているが,再発例は多く,再発を繰り返す過程で,高分化型から脱分化型へ変化(dedifferentiation)することが知られている。再手術後15カ月経過するが,局所再発および頸部リンパ節,遠隔転移を疑う所見はない。今後も局所を中心に定期的な経過観察を行う予定である。