2023 年 74 巻 1 号 p. 33-39
頭頸部領域の軟部肉腫は全頭頸部腫瘍中でも非常にまれな疾患であり,その中で脂肪肉腫は最も頻度が高い。頸部に発生する場合,解剖学的観点より再発時の完全切除が難しく比較的予後は悪いとされる。今回われわれは,腫瘍を完全切除するために頭頸部外科医が扱う頸部郭清の範囲を超え,側頸深部まで広範囲な切除を要した巨大脂肪肉腫を経験した。症例は50歳男性。上背部脂肪腫で7回腫瘍摘出術を施行されているが再発を繰り返し,7回目の手術で病理組織学的に高分化型脂肪肉腫と診断され当科に紹介された。腫瘍は左頸部から後頸部,背部に及び,頭頸科で頸部郭清術を行い,整形外科にて深頸筋膜深葉を超えて腫瘍を切除した。腫瘍切除後は,形成外科により広背筋有茎皮弁を用いて再建した。高分化型脂肪肉腫では辺縁切除が許容される場合もあるが,再発を繰り返している症例では脱分化すると遠隔転移のリスクが高いといわれている。頭頸部領域など再手術時のリスクが高い領域に発生した症例では,完全切除するために広範切除が必要である。ただし救済手術は困難になることが多く,初回治療時から計画性のある切除態度で臨むことが大切である。