COVID-19に対する気管切開は感染対策および医療安全の面から考えると手術室で陰圧環境下に施行することが望ましい。しかし多くの施設ではさまざまな制約から病室で施行せざるを得ないのが現状かと思われる。当院はこれまでCOVID-19重症例に対して8例の気管切開術を施行した。限られた医療資源の中であっても,安全に気管切開を行うため,現在取り組んでいる手術環境の整備について述べる。施行場所に関して,感染症専用病棟の重症用病室で手術を施行している。手術台としては病室のベッドではなく,ストレッチャーを使用している。これにより術者は患者の近くで自然な直立姿勢をとれるだけでなく,患者の頸部伸展も容易となるという利点がある。手術室スタッフと連携し,手術室で使う気管切開セットと同一のセットを器械台上にあらかじめ準備している。さらにリウエル鉗子もセット内に組み込んでいるので,手術中の状況に応じて術式を輪状軟骨切開術に変更することも可能である。その他,移動式LED無影灯の使用,カニューレの準備,スタッフ間で動線の確認等を行っている。以上により,手術室に近い環境下で気管切開することが可能となっている。
初診時の嚥下内視鏡検査(VE)における兵頭スコアが摂食機能の予後予測に有用かは未だ不明である。急性期病院において他科から嚥下評価を依頼されVEを行った高齢入院患者(65-94歳,中央値85歳)50例に対して,初診時の兵頭スコアによって摂食機能の予後予測ができるか,後方視的検討を行った。初診時の兵頭スコアの重症度別に,誤嚥関連イベントの発生率,退院時のFOIS(functional oral intake scale)等を検討した。誤嚥関連イベントは全体の16%(軽症17%,中等症9%,重症27%)に発生した。退院時に経口摂取可能(FOIS ≧ 4)であったのは,軽症(0-3点)83%,中等症(4-7点)74%,重症(8-12点)20%であった。初診時の兵頭スコア7点以下であれば,約80%が退院時に必要栄養量を経口で摂取可能となることが示された。急性期病院の高齢入院患者において,初診時の兵頭スコアと嚥下機能の予後には相関がみられ,退院時の摂食機能予測に有用である可能性が示唆された。
女性更年期障害の治療として,男性・卵胞ホルモン合剤注射治療を受け,副作用により話声位の低音化,声域の狭小化をきたした。さらに機能性発声障害を併発し自由会話が困難となった。機能性発声障害に対する音声治療(VT)により自由会話が可能となり,喉頭ストロボスコピー検査で声帯粘膜波動が確認できるようになった。しかし,話声位の低音化,声域の狭小化は改善せず,甲状軟骨形成術4型(TP4)を実施した。また理学療法士による,呼吸筋群の活性化,腹横筋の活性化,頸部マッサージの理学療法(PT)が術前から実施された。器質的変化をきたしていた声帯がTP4により伸長され,声帯筋緊張が保たれた状態でVTを継続し,声域の拡大,ピッチマッチが可能になり,抑揚の少ない童謡歌唱が可能となった。不可逆的器質変化が発声筋群のみならず,呼吸筋群にも起きた可能性が考えられた本症例には,VT,PT,TP4の併用は有効であった。
症例は47歳男性で,男性から女性型の性同一性障害(MTF/GID)の診断で前医にて甲状軟骨形成術4型(TP4)を施行した4年後にやはり自分は男性であるとの結論に達し,TP4を元に戻してほしいという主訴で当院へ紹介され受診した.牽引糸の抜糸手術を行っても声が元に戻らない可能性があることを説明の上,手術を施行した.手術ではゴアテックスボルスターと牽引糸を取り除いたが,術前の予想通り甲状軟骨と輪状軟骨が近接したまま一体化しており,話声位は術前206 Hz,術中201 Hz,術後202 Hzと,低下を認めなかった.術後ある程度の時間が経過するとTP4は不可逆的となることが推測された.
深頸部膿瘍は,急性期治療後に約20%の症例で嚥下障害をきたすとの報告がある。今回,頸部から縦隔にかけての広範囲な膿瘍の治療後の嚥下障害に対して,嚥下改善手術が奏功した1例を経験したため報告する。症例は64歳女性。頸部膿瘍,コントロール不良の糖尿病を認め,抗菌薬投与および血糖コントロールを行ったが,膿瘍の増大を認めドレナージ術を行った。炎症所見の改善後,ADLの低下や高度の嚥下障害が出現した。リハビリテーションは著効せず,経口摂取困難となり,喉頭挙上術を行ったところ嚥下機能が改善した。深頸部膿瘍後の嚥下障害および嚥下機能改善手術の有効性について考察を行い報告する。
頭頸部領域の軟部肉腫は全頭頸部腫瘍中でも非常にまれな疾患であり,その中で脂肪肉腫は最も頻度が高い。頸部に発生する場合,解剖学的観点より再発時の完全切除が難しく比較的予後は悪いとされる。今回われわれは,腫瘍を完全切除するために頭頸部外科医が扱う頸部郭清の範囲を超え,側頸深部まで広範囲な切除を要した巨大脂肪肉腫を経験した。症例は50歳男性。上背部脂肪腫で7回腫瘍摘出術を施行されているが再発を繰り返し,7回目の手術で病理組織学的に高分化型脂肪肉腫と診断され当科に紹介された。腫瘍は左頸部から後頸部,背部に及び,頭頸科で頸部郭清術を行い,整形外科にて深頸筋膜深葉を超えて腫瘍を切除した。腫瘍切除後は,形成外科により広背筋有茎皮弁を用いて再建した。高分化型脂肪肉腫では辺縁切除が許容される場合もあるが,再発を繰り返している症例では脱分化すると遠隔転移のリスクが高いといわれている。頭頸部領域など再手術時のリスクが高い領域に発生した症例では,完全切除するために広範切除が必要である。ただし救済手術は困難になることが多く,初回治療時から計画性のある切除態度で臨むことが大切である。