抄録
我々は,生体材料の劣化の機序を解明するために,セグメンタルポリウレタンを用いて小角X線散乱実験を行った.劣化の過程や原因を分子レベルから解明するために,分子力学,分子動力学,量子力学を用いて,量子散乱分布法,そして,バーチャルポリウレタン法(VPU)などを開発した.その結果,カルシウム・蛋白の沈着には,軟化剤に含まれるSiの大きな原子電荷の関与が示唆された.さらに,量子散乱法やVPU法で形成された仮想的ポリウレタン膜を用いた散乱シミュレーションは,非常に上手く小角X線散乱のデータを再現した.これらの計算科学的手法は,散乱データのフラクタル解析から得られた運動量移行と電子密度や散乱体表面積の間にスケーリング則の成立を支持した.