2021 年 22 巻 p. 8-16
アゾベンゼン誘導体の一つである4-(ジエチルアミノ)-4’-ニトロアゾベンゼンを合成し、そのソルバトクロミズムを半経験分子軌道計算の結果に基づいて解釈した。無極性溶媒であるシクロヘキサンと極性溶媒であるメタノールを用いて極大吸収波長を測定したところ、シクロヘキサン溶液と比べてメタノール溶液の方が約30 nmレッドシフトした極大吸収を持つことが確かめられた。このレッドシフトを解釈するため、分子の基底状態と励起状態での双極子モーメントをCNDO/S法で求めたところ、振動子強度の大きな励起状態では基底状態よりも双極子モーメントが大きいことが見出され、極性溶媒分子との相互作用によって励起状態のエネルギーが低下することが示された。同様の傾向は、密度汎関数計算によっても確かめられた。学部での有機化学実験において、溶媒による極大吸収のシフトの測定結果と計算で得られる双極子モーメントとの関連を検討させることで、ソルバトクロミズムの機構に関する理解を促すことができ、教材としても有用であった。