Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Conformational Analysis for [M(dmso)6][BPh4]2 [M=Co(II), Zn(II)] Showing Crystal-to-crystal Phase Transition
Hiroshi SAKIYAMARjoji MITSUHASHIMasahiro MIKURIYAKatsushi WAKI
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2018 Volume 17 Issue 3 Pages 153-154

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Abstract

Based on the conformational analysis for an octahedral zinc(II) complex cation, [Zn(dmso)6]2+ (dmso: dimethylsulfoxide), the crystal-to-crystal phase transition behavior of [Co(dmso)6][BPh4]2 and [Zn(dmso)6][BPh4]2 was discussed.

1 背景と目的

単核コバルト(II)錯体[Co(dmso)6][BPh4]2 (1) (dmso: ジメチルスルホキシド)および亜鉛置換錯体[Zn(dmso)6][BPh4]2 (2)はいずれも約230 Kで可逆的な結晶-結晶相転移を示す [1,2].本研究では錯カチオン[Zn(dmso)6]2+の配座解析 [2,3]を通じて,相転移の原因を解明することを目的とした.

2 方法

密度汎関数法(LC-BOP/6-31G [4])による構造最適化にはGAMESS [5,6]を用い,九州大学のFUJITSU PRIMERGY CX400 (TATARA)上でおこなった.構造の表示にはWinmostar [7]を用いた.

3 結果と考察

柔軟な[Zn(dmso)6]2+錯カチオンには数千におよぶ配座異性体が考えられるが [3,8],中心のZnO6S6部分がS6対称点群になる構造が安定であることから,該当する130の異性体について,dmso溶媒中[連続誘電体モデル(PCM)]を仮定して構造最適化をおこなった [2].得られた構造の中でもっとも安定な配座異性体(Figure 1a)は,[Zn(dmso)6][ClO4]2 (3)結晶中 [9]に見出された配座異性体(Figure 1b)と同一であったことから [2],配座解析によって結晶中の構造が予測できたことになる.

Figure 1.

 Computationally predicted most stable structure for [Zn(dmso)6]2+ (a) and crystallographically observed structure in the crystal of 3 (b).

一方,[Zn(dmso)6][BPh4]2 (2)中の錯カチオンは,同じ温度(90 K)でも錯体3中の錯カチオンとは異なる配座異性体となっていた(Figure 2a).錯体2に見いだされた錯カチオンの配座異性体はエネルギー的には不利であったが,その体積(479 Å3)は錯体3のもの(511 Å3)よりも約6%小さかった.これは,十分小さなClO4イオンの塩において錯カチオンがかさ高い最安定化構造をとり得るのに対し,ClO4イオンよりも約6倍体積が大きいBPh4イオンとともに塩を作るときには,柔軟な錯カチオンが圧縮されて変形したためだと理解できる.すなわち,この系において錯カチオンのエネルギーとコンパクトさ(体積の小ささ)とがトレードオフの関係(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない関係)になっている.

Figure 2.

 Crystal structures of [Co(dmso)6]2+ at 90 K (a) and at room temperature (b).

ここまで,90 Kにおける錯体2の低温相の構造について述べてきたが,錯体1の低温相(Figure 2a)と高温相の構造(Figure 2b)とを比較すると,低温相では一つの配座異性体しか見られないのに対し,高温相の構造にはディスオーダーが見られ,複数の配座異性体が混在している.このディスオーダーの様式は,錯カチオンのdmso部分が硫黄反転運動していることを示唆しており,示差走査熱量測定(DSC)の結果(ΔH = –8 kJ/mol) [1]もこれを支持している.[この|ΔH |値はdmsoの融解熱(14.37 kJ/mol) [10,11]より幾分か小さい.] このことから,高温相では錯イオンのdmso部分が硫黄反転運動をおこなっており,冷却過程においてこの運動が止まることで結晶相転移が起こり,昇温過程で再び硫黄反転運動が開始して結晶相転移が起こると結論付けられる.

錯体2の錯カチオンは,高温相(482 Å3)では低温相 (479 Å3)よりも体積が大きく安定な構造になっている.これは高温相において熱運動に有利な構造がとられることと矛盾せず,ここでもエネルギーとコンパクトさのトレードオフ関係が見られる.かさ高いBPh4イオンによりトレードオフ関係が顕著に表れたことが,相転移の一因になっていると考えられる.

4 結論

[Zn(dmso)6]2+錯カチオンの130の異性体について構造最適化をおこなうことで,[Zn(dmso)6][ClO4]2 (3)結晶中の構造予測に成功した.また,[Co(dmso)6][BPh4]2 (1) や[Zn(dmso)6][BPh4]2 (2)の高温相では錯イオンのdmso部分が硫黄反転運動をおこなっており,低温相ではこの運動が止まっていると考えられる.かさ高いBPh4イオンにより錯カチオンのエネルギーとコンパクトさ(体積の小ささ)とのトレードオフ関係が顕著に表れたことが,相転移の一因になっていると考えられる.

Acknowledgment

本研究はJSPS科研費15K05445の助成および山形大学の運営交付金によっておこなわれた.

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