2023 年 11 巻 p. 87-96
本研究の目的は,手術を決意した高齢乳がん患者が治療の過程で抱いた思いを理解するためにナラティブ・アプローチを実践することで,患者の物語がどのように変化するかを明らかにすることである。本研究では,乳がん患者1名に術前・術後・退院後にナラティブ・アプローチによる面接を各々1回ずつ合計3回行い,患者の物語を質的記述的に分析した。語られた内容を端的に表すサブタイトルのうち経時的な変化がみられたものについては「孤独感と不安」「医師に尋ねることのためらい」「病気に対する姿勢」「男所帯の中で唯一女性である自分の家庭内の役割」という4つのテーマにまとめることができた。治療の過程でさまざまな葛藤を抱える高齢乳がん患者の物語は,ナラティブ・アプローチを通して,新たな物語すなわち新たな現実に変化した。その結果,患者はさまざまな葛藤に向き合い,それらを引き受けることで,治療に対する主体性を徐々に取り戻した。