2023 年 11 巻 p. 79-86
同種造血幹細胞移植はドナーの存在が前提の治療行為であり,常に倫理的ジレンマを伴う。悪性リンパ腫のため造血幹細胞移植が必要となった患者の妹がドナー候補となったが,出産後1年未満のため,関連学術団体が定める血縁造血幹細胞ドナー傷害保険加入適格基準を満たさず,HLA検査は行わなかった。患者はさい帯血移植を行い,生着後に退院したが再発した。再発時に,前回の移植計画時にはドナー適格性を有しないと判断された妹のHLA型が一致していることが判明し,妹をドナーとした再移植を行った。通常,ドナーとしての適格性を満たさないと判断された場合,該当のドナー候補者本人に対する有益性がないことより,遺伝情報にあたるHLA検査は実施しないことが原則である。しかし,このドナー候補者の場合,不適格理由が出産後1年未満であったため,造血幹細胞移植の実施を延期すれば,ドナー適格性を有すると判断することが可能であった。加えて,さい帯血移植が生着不全となった場合に備えて,移植前にHLA検査を行うことの妥当性も検討を行ったが,今回われわれはHLA検査を行うことのデメリットを重視し,1回目の移植時点ではドナー候補者のHLA検査を実施しなかった。このプロセスにおける倫理的ジレンマについて検討する。