比較教育学研究
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論文
マラウイにおける孤児の生活と就学
―中等教育の就学継続にかかる事例―
日下部 光
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2015 年 2015 巻 51 号 p. 106-128

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抄録

 サブサハラ・アフリカ地域(以下、アフリカ)の孤児数は約5,000万人であり、アフリカにおける子どもの総数に占める割合は約12%である。アフリカの孤児の就学に関する研究では、貧困やHIVエイズの蔓延と不就学の要因に関する分析が重点的に行われてきた。一方で、孤児を含む個人の能力に焦点を当て、困難や脅威に対応する能力と不就学の要因をミクロな視点から分析する必要がある。その理由として、同じ困難や脅威に直面しても、多くの孤児は就学継続を実現していることが挙げられる。

 本研究の対象国であるマラウイは、世界最貧国の一つであり、かつ年間のエイズ死亡者数4.8万人、孤児数79万人のHIV高感染国である。孤児の割合は、初等教育において11%、中等教育では19%に達している。無償の初等教育に対し、中等教育は有償にもかかわらず、多くの孤児が中等教育への就学継続を実現しており、本研究ではこの点に着目する。

 本研究の目的は、マラウイの中等学校の孤児を対象に、①孤児自身やその親族の就学継続を可能にする取り組み、および②中等学校における就学支援の実践に対する事例分析をもとに、孤児やその親族、教師の視点から、孤児の生活と就学の実態を明らかにすることである。現地調査は、2014年9月にマラウイ南部ゾンバ地区において、中等学校の孤児生徒(33名)、教師(18名)を対象に、ライフストーリー・インタビューを実施した。

 孤児の中には、親の死や生活の困窮など複層的に困難な状況に置かれても、中等学校進学後、学費の工面や生活維持を目的とする収入創出活動を通して、就学継続を可能にしていた。しかし、孤児の努力だけでは就学継続が厳しい場面もある。そのため、政府やNGOの奨学金プログラム、学校レベルでは学費の納入猶予や分納以外に、校長裁量で半額免除や未納の見逃し、教師による緊急時の支援等が展開されている。

 孤児は厳しい生活環境の中で、時には、制服を洗濯するための一つの石鹸が確保できないことも、孤児の就学継続に影響を与えている。そのような困難な状況に置かれながらも、孤児自身の取り組みに加え、親族や教師といった周囲の関係者からの支援、政府やNGOの奨学金支援や校長裁量による学校側の柔軟な対応など、個人を取り巻く環境や人々の繋がりにより、孤児の就学継続が支えられている実態が明らかとなった。

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© 2015 日本比較教育学会
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