比較教育学研究
Online ISSN : 2185-2073
Print ISSN : 0916-6785
ISSN-L : 0916-6785
論文
香港・日本の小学校における親の学校との関わり
―家庭背景・社会関係資本・学力の関連―
垂見 裕子
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 2015 巻 51 号 p. 129-150

詳細
抄録

 本稿の目的は、小学生の親がどの程度学校と関わっているのか、その関わりが家庭背景の影響を受けているのか、また子どもの学力に影響を及ぼしているのか、香港と日本の比較から明らかにすることである。本稿では、親の関与は学校との関わりに注目し、教員や他の保護者とのコミュニケーションや信頼関係、学校やPTA行事への参加で測られている。親が教員や他の保護者や学校と関係性を構築することにより、子どもの教育に有益な情報や信頼関係や規範などの資源を得られると仮定し、親の学校との関わりを「社会関係資本」の枠組みで捉える。

 JELS 2009年日本Aエリア(関東地方大都市圏近郊中都市)データ、2010年香港A区(中心部)データの児童調査および保護者調査を用い、マルチレベル・ロジット回帰分析を適用した結果、以下の知見を得た。第一に、子どもの学力が家庭背景により規定される程度は、香港よりも日本で強い。下位層の親の社会経済状況の不利は香港の方が大きいにもかかわらず、下位層の子どもの学力面での不利は日本の方が大きい。第二に、親の学校との関わりは香港でも日本でも総じて高いが、関わりの側面により差異が見られ、日本では他の保護者とのコミュニケーションが高く、香港では学校のPTA行事への参加の頻度が高い。第三に、日本では家庭背景の高い親ほど学校との関わりが強いが、香港では上位層の関わりが最も弱い。なお、家庭における親の教育的関与や学校運営や授業指導における親の関与は、本稿の分析に含まれていないことに留意は必要である。第四に、香港では下位層の親が学校と強く関わることにより、子どもの学力の不利が一部抑えられている。一方、日本では上位層の親の方が学校との関わりが強いことが確認されたものの、親の学校関与が家庭背景と学力の関連を媒介することは示されなかった。

 親の関与(Parental Involvement)が1990年代から新しい教育政策として掲げられ、PTAの設置や学校運営の在り方が政策レベル・学校現場・学術的に活発に議論・模索・調査されてきた香港の事例は、日本で下位層の親が教育に有益な社会関係資本を獲得できるような家庭と学校の連携の在り方を模索する上で、示唆に富むと考える。

著者関連情報
© 2015 日本比較教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top