抄録
症例は59歳, 男性.右眼球突出, 前頭部痛を主訴に当院を受診した.既往歴に特記すべきことなし.頭部MRIにおいて右眼窩先端部から前頭葉, 側頭葉にかけて, T1強調画像で等信号域, T2強調画像で低信号域, ガドリニウム造影像にて不均一に造影される病巣を認めた.篩骨洞粘膜の肥厚もみられた.脳血管撮影では右中大脳動脈, 内頸動脈の壁が一部不整であった.右前頭側頭開頭により部分摘出を行った.組織学的にはムコール症であった.術後よりfluconazoleの投与を行っていたが, 14日目に左片麻痺が出現した.脳血管撮影では右中大脳動脈が閉塞しており, 菌糸の血管浸潤によるものと考えられた.以後, amphotericin Bの投与に切り替え, 徐々に病巣は縮小傾向にある.健康成人に発症した鼻脳型ムコール症を経験し, 比較的良好な経過を得ることができた.文献的考察を加え報告する.