2013 年 22 巻 10 号 p. 778-785
ヒト動脈瘤壁では血管壁の退行性変化がみられ, それが脳動脈瘤破裂の主因であることが病理学的検討から示されてきた. われわれは実験的脳動脈瘤モデルを用いて, モデル動物の脳動脈瘤壁にもヒト脳動脈瘤と同様の退行性変化が起こること, その退行性変化が血管内皮細胞におけるNF-κBの活性化に始まり, 脳動脈瘤壁へのマクロファージの集簇, MMPなどのproteinaseの分泌とコラーゲンの合成抑制による細胞外マトリックスの分解亢進に至る炎症カスケードによって促進されることを明らかにしてきた. また, これらの炎症性変化を抑制するスタチンやおとり核酸の投与によりラット脳動脈瘤壁の退行性変化が抑制されることも証明した. 一方, computational fluid dynamics (CFD) を用いた流体力学的アプローチによって, 動脈瘤壁に生じる血行力学的負荷が, 動脈瘤発生や破裂に密接に関係していることが示されてきている. 今後の課題は, どのようなflowが炎症カスケードの引き金になるかを検討することである. この課題が克服されれば, 脳動脈瘤破裂の予測や破裂防止のための薬物療法の開発が可能になると期待される.