抄録
原発性脳腫瘍は腫瘍の形態学, 細胞学, 分子遺伝学, 免疫組織学的特徴を併せて評価するWHOのgradingが広く普及し, 疾患予後を表す指標となっている. 神経膠腫の遺伝子診断は, 病理診断の補助的な役割をするばかりではなく, 新しい腫瘍分類を構築し, それに基づいた治療体系を提示する可能性を秘めている. いくつもの遺伝子異常が重なる必要があるという多段階発癌説が現在の共通認識であり, 理論的にはそうした遺伝子異常のパターンによって腫瘍細胞の生物学的特性を予測することは可能である. グリオーマ (神経膠腫) の化学療法を理解するために必要な遺伝子変化として, O6-methylguanine DNA-methyltransferase (MGMT), 染色体1p19q, epidermal growth factor receptor (EGFR), TP53, およびisocitrate dehyrodogenase (IDH) 1 & IDH 2等が特に着目されている. The Cancer Genome Atlas (TCGA) による膠芽腫の最新分類も発表されている. 悪性神経膠腫に対してテモゾロミド (TMZ) という第2世代アルキル化剤が現在の標準治療法であるStuppプロトコルの化学療法の基本となっているが, 約半数の症例がこのTMZに対して耐性を示す. いまだ有効な治療方法がなく, 予後がきわめて悪いとされている神経膠芽腫の化学療法の有効性を改善させるにはいくつかの障壁があり, その克服が予後改善につながると考えられる. 新しい化学療法にはそれぞれの障壁, 特にMGMT, 血管新生および血液脳関門 (BBB) を克服する試みがされている. TMZの薬物耐性をきたすMGMTの克服にはTMZの増量方法やインターフェロンβ (IFN-β) の併用が臨床試験で試されている. 血管新生を抑制する抗血管新生療法としてアバスチン (BEV) が注目されており, その有効性を調べた2つのランダム化臨床試験, AVAGlioおよびRTOG 0825が新しく発表された. 血液脳関門の克服として局所化学療法が注目されており, カルムスチン脳内留置用剤 (BCNU wafer interstitial chemotherapy) に期待される. MGMTの克服としてわれわれは以前よりIFN-βに着目しており, 動物実験の結果その有効性および安全性が証明されている. 本稿では, IFN-β併用の有効性についてわれわれの実験結果およびその有効性に基づいた臨床試験 (INTEGRA Study) を紹介する. その他, MGMT克服としてTMZの増量方法, BEV併用の臨床試験およびBCNU waferの臨床試験の文献的検討を加えた神経膠腫に対する化学療法の最新知見を述べる.