2021 年 30 巻 10 号 p. 712-719
「防ぎ得た外傷死 (preventable trauma death : PTD) 」 の回避を指向した初期診療はきわめて重要である. PTDは, 適切な診療を行えば救命し得た (予測救命率>50%) にもかかわらず, それらを怠ったために救命できなかった外傷死亡を指す. わが国においても外傷治療の標準化が強調され, その努力によって頭部を含む多発外傷における死亡率, 予期せぬ死亡 (unexpected death≒PTD) は減少しているが, 依然1割の患者死亡が防ぎ得た死亡である. われわれが検討したデータでは頭部外傷に関するunexpected deathのうち, 急激に病態が悪化するtalk and deteriorate症例が26.2%, 抗血栓薬内服患者がその26.8%と多くを占めていた. ゆえにPTDを撲滅するためには高齢者頭部外傷の増加や抗血栓薬内服患者の増加への対策が急務である.
外傷診療の初期治療には刻一刻と変化する病態生理に先んじたdecision makingが求められている. 気道, 呼吸, 循環の的確な評価と維持に加え, 的確なタイミングでの抗凝固薬中和や抗線溶薬 (トラネキサム酸) 投与の知識も必須である.
本稿では, 頭部外傷診療の “first one hour” に焦点を当て, 初期診療における重要点を提示したい.