2012 年 65 巻 8 号 p. 453-457
症例は65歳女性.大腸内視鏡検査ではRS-Raの1/3周性2型病変,SS以深の直腸癌と診断された.術前検査中に腰痛・大腿部痛が出現し,採血では腎機能障害と著明な炎症反応の上昇があり,胸腹部CT検査では肝膿瘍,右膿胸,右腸腰筋・左側腹部筋層内膿瘍,腰椎L3-4化膿性脊椎炎と腎盂腎炎を認めた.血液・尿・膿瘍培養からKlebsiella pneumoniaが検出され,直腸癌の後腹膜穿通と菌血症によるものと推測し,抗生剤投与を開始した.全身状態は改善したが腰痛が悪化し,脊椎L3-4の椎体破壊を認めたため,低位前方切除術+腰椎前方固定術を施行した.全身膿瘍の原因としては直腸癌からの経門脈経路,検査などによる内圧上昇に伴う経動静脈経路,担癌患者の免疫力低下などを考えた.今回我々は全身多発膿瘍の診断・治療を的確に行ったことで癌の切除術が可能となった一例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.